第20回日本獣医がん学会に参加してきました。

1月26〜27日に大阪で開催された学会へ参加してきました。
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 今回のメインテーマは肥満細胞腫という腫瘍でした。この腫瘍は犬・猫ともに発生頻度が高く、またいわゆる癌の中でも再発・転移が多いやっかいな腫瘍です。犬と猫では傾向が異なり、犬では皮膚にできる肥満細胞腫が多く悪性度が高い場合は、かなり大きく切除しないと再発する可能性が高くなります。一方、猫は皮膚に発生するものは良性が多く問題になることは少ないですが、内臓にできるタイプでは全身性に広がる場合は命に関わることもあります。
 この腫瘍の治療はまず第一に外科手術であり、その方法は今も昔も大きくは変わらないので今回の学会でも復習のようなものでしたが、昔と比べ変化が大きいのが内科治療であり、それが今回のメインでした。
 近年、獣医分野でも腫瘍に対する内科治療として分子標的薬と言われる薬が使われるようになってきました。従来の抗がん剤は細胞分裂を行なっている細胞を攻撃するため、癌細胞だけでなく骨髄や腸などの正常な細胞もダメージを受けてしまい、下痢や嘔吐、脱毛(動物では少ない)などの副作用が起きてしまうことが問題でした。しかし分子標的薬は癌細胞を標的に作用するため正常細胞への障害が少なく、従来の抗がん剤ほどは副作用が出にくいとされています。この薬により、内科治療の選択肢が増えました。
 ただし前述のように肥満細胞腫の治療は外科手術が基本です。しかし手術では取りきれない大きさや部位の腫瘍に対して、または転移を疑う肥満細胞腫に対しては補助治療が必要になります。放射線治療も有効ですが、残念ながらこの地域には行える施設がないため、内科治療が重要になります。
 悪性度が高い肥満細胞腫は、治療が困難な腫瘍の一つです。そのため手術と内科治療を組み合わせた治療のなかで、それぞれにあったものを選ぶ必要があると再認識しました。
淺田慎也

第109回獣医循環器学会に参加してきました

第109回獣医循環器学会に参加してきました

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1月11〜13日に仙台市で開催されたこの学会は麻酔外科学会との合同開催です。12、13日の2日間参加してまいりました。

内容は目新しいものはそれほどありませんでしたが、基礎的なことを含め、押さえておくべき重要事項の復習といった感がありました。

 麻酔時の事故を防ぐための留意事項、不整脈を正確に診断するための心電図活用法、各診療施設での症例報告などです。

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 不整脈には生活に影響なく、特に治療の必要のないものから、突然死を引き起こす危険なものまでさまざまで、これらをきちんと診断できることが大切となります。

 通常来院時の動物たちは緊張や興奮から、通常家にいる時とは心拍・血圧・心電図波形などが異なっていることも多くあります。そのため、24時間以上、時には72時間の心電図連続記録(ホルター心電図)を実施することがあります。

 興奮時のふらつきや失神、座り込んだり倒れたりといったことがたまにでも見られるようであれば、動物病院にご相談されると良いと思います。

 今学会では、歯科・口腔外科で著名なVets Dental & Oral Surgery Office 院長の江口徳洋先生の講演も聴くことができました。

 歯周病は心内膜炎など、歯とは全く異なる臓器にも炎症を起こすなど、実はとても問題のある疾患です。

 歯と歯肉のホームケアと定期的な麻酔下でのメンテナンス・治療により、高齢になっても見た目が綺麗なだけでなく口臭の少ない、健康な口腔環境を維持することが可能です。この点もぜひ強調して今回の学会参加報告を終えたいと思います。

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今月の病気⑫ 小鳥の卵塞

小鳥の卵塞
小鳥科  井出いづみ
今回はセキセイインコや文鳥、ラブバードなど来院数の多い鳥種によくみられる卵塞(卵詰まり)についてお話します。
鳥類の雌において、体内で卵を形成するのに大体24時間かかるとされています。詳しく説明すると、卵巣から排卵された卵子が卵管内で受精し、その後卵管内を通過していく過程で卵白や卵殻が形成されていきます。最後には総排泄孔から産卵されます。ここまでにかかる時間が24時間、長くて28時間と言われています。
ですから卵塞とは何らかの原因で「卵が24時間経過しても産卵されない状態」と言えます。
ではなぜ卵が正常に産卵されないのでしょうか?
主な原因にカルシウム不足による「卵管の収縮不全」と「卵形成の異常」が挙げられます。
卵殻の形成にカルシウムが使い果たされていると、卵管の収縮がおこらず産卵することが出来なくなります。更に卵形成が正常に行われないと変形卵や未熟卵などが生じ通過障害が起こって産卵がうまくいかなかったり卵管が傷ついたりしてしまいます。
また血中のカルシウムが不足することで脚麻痺や起立困難をおこしたり、致命的な痙攣をおこす事もあります。
この他、卵塞の原因には環境ストレスによるもの(例えば冬期の寒冷ストレス)や運動不足や栄養低下などによる筋肉の障害など様々です。飼育鳥を含め鳥類の繁殖期は春ですが条件さえ整えば通年発情となり、昨今では飼育下における過発情も卵塞につながる大きな要因の一つとなっています。ですから卵塞は、適切な飼育環境(温度、日照時間、日光浴、カルシウムやビタミンDの摂取など)を整えることで予防することも可能な疾患ともいえるでしょう。
ではご自宅で飼育している雌鳥が卵塞を起こしている状態とはどのような状態を言うのでしょうか?
卵塞を疑う症状として一般的に以下のようなものが挙げられます。
・腹部が膨らんできたが卵を産まない
・お腹を触ったら何かある
・イキンでいるが産卵しない
・床に下りて膨らんで寝ている
・おしりから白いものや赤いものが出ている
・起立困難
・元気、食欲低下など
以上のような症状がみられた時にはなるべく早めに病院を受診することをお勧めします。
卵塞をおこした雌鳥は状態が急速に悪化し、軽症にみえても急死することもあります。
卵塞は命にかかわる油断の出来ない疾患なのです。
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では最後に、卵塞の治療についてお話します。
卵塞を起こしている雌鳥は停滞した卵によって腹腔内の臓器や気嚢が圧迫されて呼吸状態が悪かったり、腹部の疼痛によって重度の膨羽を起こしていたりと非常に危険な状態の場合もあるため、まずは触れる状態かを確認し必要であれば酸素吸入をしながら様子をみます。
触診が可能であれば大抵の場合はカルシウム剤の注射投与を行います。先にお話した低カルシウム性の卵管収縮不全による卵塞の場合は、カルシウム剤の投与後に産卵することが多いのですが、それでも正常な産卵が起こらない場合は、用手にて腹腔内の卵を圧迫しながら排泄口側へたぐり寄せ排出させます。卵管口がうまく開かなかったり、卵と卵管が癒着していたりする場合は卵に注射針で穴をあけ中身を吸引してから卵殻を取り出す場合もあります。
以上のような用手法でも卵排出ができない状況(卵が異常な位置にある、すでに破卵しているなど)では開腹手術を検討する必要もでてきます。
犬や猫であれば不妊手術である卵巣子宮摘出術が一般的ですが、鳥類においては体内における生殖器の構造やサイズの問題などから不妊手術が一般的ではありません。
ですが何度も卵塞を起こしたり、卵塞によって卵の排出が困難な際には卵管摘出術を試みる準備が必要かと思います。
卵塞を起こした鳥は次も卵塞を起こす可能性があります。日頃からビタミン剤やミネラルの投与、日光浴を行ったり、温度や日照時間そして食餌量を適切に管理して過発情を誘因しないよう日頃からしっかりと管理を行うことが大切ではないかと思います。

新年を迎えて

この冬は暖冬と言われていますが、部屋の乾燥による喉の荒れからの咳(呼吸器の病気)には気を付けましょう。湿度管理が大切です。

 また、冬はジステンバー等の感染症も発生する時期のため必ずワクチン接種は継続してください。
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