獣医師コラム

犬の認知症|早期発見と対処法を獣医師が解説

「認知症」と聞くと、人に特有の問題と考える方も多いかと思いますが、実は犬でも発症することをご存じでしょうか。人間と同じく、犬の高齢化や長寿化に伴い、犬の発症率も増加しています。

 

今回は、犬の認知症について症状や特徴、治療法、介護の準備など詳しく解説します。

 

 

■目次
1.犬の認知症とは?その症状と特徴
2.犬の認知症の診断方法
3.犬の認知症の治療法
4.認知症の進行と介護の準備
5.獣医師と飼い主の協力体制
6.まとめ

 

犬の認知症とは?その症状と特徴

認知症(認知機能不全症候群)とは、高齢になり脳が老化することで認知機能が低下し、刺激への反応が鈍くなったり、学習や記憶の能力が低下 したりする病気のことを指します。

 

認知症を発症すると、次のような症状が見られるようになります。

 

ぼーっとしている

呼びかけに反応しない

夜鳴き

徘徊

失禁

昼夜逆転の生活になる

狭い場所に入り込んで出られなくなる

寝たきりになる など

 

認知症の発症には年齢が大きく関係しており、特に13歳以上の犬で多く見られます。

また、柴犬を代表とする日本犬種やその雑種と、洋犬ではヨークシャーテリアで多く見られる傾向がありますが、どの犬種でも発症する可能性があります。

 

一方で、猫での認知症の発症は非常にまれです。しかし、犬と同じように高齢になると認知機能が低下する可能性があるため、注意が必要です。

 

犬の認知症の診断方法

認知症の診断は、まず獣医師が飼い主様から症状が始まった時期や自宅での様子、既往歴などを詳しく聞くことから始まります。

そして、見られる症状が認知症に当てはまるかを確認するために、「DISHAA」と呼ばれる評価方法や、「犬痴呆の判断基準100点法」を用いて犬の状態をスコア制で評価します。

 

さらに、心不全や内分泌疾患、関節の異常などの病気によっても犬に行動の変化が見られるため、それらの疾患を除外するために血液検査や画像検査を行い確認します。

これにより、他の病気が原因でないことを確かめた上で、認知症の診断を確定します。

 

犬の認知症の治療法

残念ながら、犬の認知症を根本的に治療する方法はありません。そのため、治療の目的は病気の進行を遅らせ、症状を緩和することにあります。

治療には、以下のような方法を症状や状態に合わせて行います。

 

食事療法とサプリメントの活用

脳の神経細胞の働きや情報の伝達を活性化させる目的でDHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸、ビタミンE、レシチンなどの成分が多く含まれる療法食やサプリメントを利用します。

 

薬物療法

認知症の症状や問題行動を軽減するために、抗不安薬や抗うつ薬、鎮静剤などを服用することがあります。

 

生活環境の整備と飼い主様の関わり方

食事や散歩などの生活サイクルを一定に保つことが大切です。また徘徊などで家具にぶつかってしまう場合には、できるだけ家具をどかして、柔らかい素材のマットでガードするなどの工夫が必要です。愛犬が歩き回れる程度の広さのサークルを用意することも効果的です。

 

さらに、毎日のマッサージやブラッシングなどで積極的にスキンシップやコミュニケーションを取ること、適度な運動を行うことも認知症の進行を遅らせるために効果的です。

 

認知症の進行と介護の準備

認知症は進行性の病気であるため、上記のような治療や対応を行っていても徐々に症状が進んでいきます。

初期にはぼんやりする、声かけに対する反応が鈍い、たまにトイレを失敗してしまう、夜なかなか寝ないなどの症状から始まることが多いです。

時間が経つにつれて、家族を認識できなくなる、凶暴になる、夜中に吠える、どこでも排泄してしまうなどの異常な行動が増えていきます。

また、最終的には寝たきりになってしまうことも少なくないため、介護が必要となる可能性もあります。

 

認知症が進行し、異常な行動が頻繁に見られるようになった場合には、以下のような症状に合わせた対応が必要です。

 

・昼夜逆転を防ぐために、昼間に日光浴や運動をさせて刺激を与えましょう

・徘徊によるケガや迷子を防ぐため、バリケードやクッション性のあるマットでガードしたり、円形のサークル内で過ごさせたりするとよいでしょう。

・トイレの失敗に備えて、寝床には防水シーツを敷く、または犬用のオムツを着用させることも考慮してください。

 

また、もしも寝たきりになってしまった場合には介護が必要となります。

 

介護では、排泄のお世話や食事の介助に加えて、床ずれを予防するために体圧を分散させる介護用のマットを使用し、頻繁に愛犬の体位を変えてあげることが重要となります。

さらに、血行を良くするために毎日身体のマッサージや、無理のない範囲で手足の筋肉を動かすことも大切です。

 

寝たきりの愛犬の様子や皮膚の状態には常に注意を払い、もし床ずれを起こしてしまった場合はすぐに動物病院を受診しましょう。

 

獣医師と飼い主の協力体制

犬の認知症においては、獣医師と飼い主様とが協力していく必要があると考えています。

特に重要となるポイントは以下の3点です。

 

定期的な健診と治療方針の調整

定期的に健康診断を受けることは、認知症をはじめとするさまざまな病気を早期に発見するために非常に重要です。

また、もし愛犬が認知症を発症してしまった場合には、定期的な診察を通じてその都度症状や状態に合わせた治療方針を決定していくことが必要です。

 

飼い主様の役割と心構え

犬が高齢になると認知症を発症する可能性があることを理解しておくことが大切です。

また、認知症では昼夜逆転や寝たきりになるなどのさまざまな症状が現れることを認識し、もしも愛犬が認知症と診断された場合には、介護が必要になることを見据えて心身の準備をしておきましょう。

 

動物病院のサポート体制

動物病院は、飼い主に対して認知症についての正しい知識を提供することが重要だと考えています。

まずは認知症の診断基準(スコア制など)を明確にし、客観的な評価を行うことで的確な診断を行い、認知症と診断された場合には、サプリメントや薬物療法などの適切な治療を提案していきます。

 

また、認知症では犬によって症状の種類や進行度には個体差があるため、愛犬に合わせた介護方法について、飼い主様へのアドバイスを行っています。

 

当院では認知症の愛犬と飼い主様に寄り添い、診断から治療、介護に至るまで継続的にサポートする体制を整えております。

愛犬の様子で何か気になることやご不安なことがある場合には、ぜひ当院にご相談ください。

 

まとめ

認知症はどの犬でも発症する可能性があり、一度発症してしまうと根本的な治療法がない病気です。また時間の経過とともに症状も進行してしまうため、早期発見と対応が愛犬の予後を左右します。

そのため、飼い主様は犬で見られる認知症の症状を知り、愛犬にも起こりうる病気であることを認識しておくことが大切です。

もしも愛犬に気になる様子が見られるという場合には、早めに動物病院で診察を受けましょう。

 

富山県射水市の動物病院 吉田動物病院

TEL:0766-52-1517

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