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獣医師コラム

犬や猫も感染するSFTSとは?富山県でも確認された重症ウイルスの正体と予防の重要性

「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」という病気をご存じでしょうか。マダニを介して感染するウイルス性疾患で、もともとは西日本を中心に報告されていた病気です。しかし、近年は全国的に広がりを見せ、富山県でも犬の感染例が報告されています。

 

実は3年前、富山県内の動物病院で飼い犬2頭におけるSFTS感染が確認されました。それまで富山県内では、人を含めてSFTSの感染例は一度もなかったため、大きな話題となりました。さらにその年の11月には、富山県で初めて人の患者が確認され、先日には2例目となる感染例が報道されています。今やSFTSは決して遠い地域の病気ではなく、私たちのすぐ身近にある感染症です。

 

今回は、犬や猫におけるSFTSの特徴や、飼い主様にできる予防策について詳しく解説します。

 

 

■目次
1.北上するSFTS|全国で報告が相次ぐ感染症
2.犬と猫ではリスクが異なる|猫のSFTSは特に注意が必要
3.ダニの活動時期と予防の現実|100%防ぐことはできなくても
4.正しく知って、冷静に備える|不安よりも行動を
5.まとめ|SFTSのリスクに正しく向き合うために

 

北上するSFTS|全国で報告が相次ぐ感染症

SFTSはもともと九州や中国地方など、西日本を中心に報告されていた病気でした。しかし近年はその勢いを増し、東日本や東北地方でも患者報告が増加しています。

 

たとえば、岩手県や秋田県でもSFTSの感染者が確認されており、その多くは旅行中にマダニに刺され、帰宅後に発症した例とされています。つまり、マダニが生息する地域に立ち入ることで、誰もが感染リスクにさらされるおそれがあるということです。

 

富山県も例外ではありません。犬の感染が報告されたことに加え、人での発症例も出ており、富山県内にもSFTSウイルスを持つマダニが生息していると考えられます。地方紙にも再びこの話題が取り上げられ、地域全体の関心が高まりつつあります。

 

犬と猫ではリスクが異なる|猫のSFTSは特に注意が必要

犬や猫もマダニに刺されることでSFTSウイルスに感染することがありますが、犬と猫では発症の仕方や重症度が異なることがわかっています。

 

猫の場合

感染から数日で急激に症状が悪化

食欲不振、発熱、元気消失、黄疸、嘔吐、下痢などの症状が見られる

早期に適切な治療を行っても、亡くなってしまうことがある

発症後1週間以内に命を落とすケースも少なくない

 

猫はもともと屋外に出る機会が多い子や、野良猫出身の子、保護猫などが感染リスクにさらされやすく、注意が必要です。

 

犬の場合

多くは不顕性感染(症状が出ない)

感染しても自然治癒してしまうと考えられている

ただし、気づかれていないだけの可能性もあり、実際の発症例が少ないだけともいえる

 

犬では目立った症状が出にくいため「うちの子は大丈夫」と思われがちですが、飼い主様ご自身の感染予防の観点からも対策が欠かせません。

 

ダニの活動時期と予防の現実|100%防ぐことはできなくても

SFTSを媒介するマダニは、春から秋にかけて活動が活発になります。特に5〜10月は草むらや山間部などに出かける際に注意が必要です。

 

人の場合は、

 

・肌を露出しない

・長袖・長ズボン・手袋を着用

・虫よけスプレーの使用

・草むらを避ける

 

などの対策が有効ですが、犬や猫は同じような対策をとることができません。

 

特に犬は、散歩中に鼻先を草むらに突っ込んだり、足先から体の隙間にマダニが入り込んだりするため、完全に防ぐことは非常に難しいのが現実です。

 

マダニ予防薬の正しい使い方と限界

現在では、さまざまなマダニ予防薬が販売されています。

 

滴下タイプ(首元などにたらす)

内服タイプ(おやつのように食べさせる)

 

いずれも月に1回の投与で1カ月または3カ月効果が持続する予防薬があることで感染リスクを下げることが期待されます。

 

ただし、予防薬を使っていてもマダニが一時的に体につくことはあります。

マダニがウイルスをどのタイミングで注入するのかは解明されていませんが、予防薬を使うことで早期にマダニが死滅するため、感染リスクは確実に下げられるとされています。

 

つまり「予防薬を使っても意味がない」と思われるかもしれませんが、それは誤解です。 完全な予防が難しいからこそ、少しでもリスクを減らすという視点が大切です。

 

正しく知って、冷静に備える|不安よりも行動を

SFTSは確かに重症化する病気であり、命に関わることもあります。最近では、現役の獣医師がSFTSにより亡くなったという報道もあり、私たち動物医療に関わる者にとっても、非常に身近な感染症になりつつあります。

 

しかし、必要以上に不安になるのではなく、正しい知識をもとに冷静に備えることが何よりも大切です。

 

飼い主様に意識していただきたいこと

定期的にマダニ予防薬を使用する(1カ月または3カ月に1回が目安)

散歩後は愛犬・愛猫の体にマダニが付いていないかチェックする

特に耳の裏・首周り・足の付け根などを重点的に確認する

草むらなど、マダニが多く潜んでいそうな場所をなるべく避ける

万が一マダニを見つけた場合は、無理に引き抜かず動物病院へ相談する

 

富山県でも感染が確認された以上、もはやこの病気は「自分たちには関係ない」とはいえません。ですが、日々のちょっとした工夫や習慣によって、愛犬・愛猫、そして飼い主様自身の感染リスクを減らすことにつながります。

 

まとめ|SFTSのリスクに正しく向き合うために

SFTSは、犬や猫にとっても決して無関係ではない感染症です。特に猫では命に関わるような重症化を招くことがあり、予防の重要性はますます高まっています。

 

富山県内でも感染例が確認されている以上、私たちができることは、不安に飲み込まれるのではなく、確実にリスクを減らすための一歩を踏み出すことです。

 

当院では、マダニ予防薬のご相談はもちろん、SFTSをはじめとする感染症への対策についても丁寧にサポートいたします。「うちの子、大丈夫かな」と少しでも不安を感じられた際は、どうぞお気軽にご相談ください。

 

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富山県射水市の動物病院 吉田動物病院

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